表現の拡張展は、毎年1月に実施している上浦担当演習授業の成果展です。展示作品は、いずれも実験的アプローチを推奨する課題に応えるかたちで作られたものです。表現手段の拡張に貢献してもらうこと、あるいはそれを目指すことで実験的姿勢(=遊び心)を身に付けてもらうことを主な目的としています。また、専門分野を問わず取り組める課題設定にすることによって、異分野の学生同士が互いの発想の仕方や捉え方の違いを知り、視野を広げるきっかけとしてもらうことも目的としています。

DM作品写真提供:青木航大(学群 2年)

大学院生対象課題:「黒一色の表現」

課題概要
黒に限定することで生じる視覚効果によって表現の開拓を試みる課題。視点を絞ることでこそ広がる表現の可能性に着目してもらう。専門分野を問わず取り組める課題設定にすることによって、異分野の学生同士が互いの発想の仕方や捉え方の違いを知り、視野を広げるきっかけとしてもらうことも目的としている。
課題条件
・平面・立体いずれも可。描く、貼る、並べるなど技法も自由。
・黒の客観的指標は設けないが、大多数の人が黒色として認識できる範囲に収めること。
・暗い黒から明るい黒までのわずかな幅で表現するのも可。光沢やテクスチャも活用可。
・「白い画面に黒で描き、余白は白」は不可。作品全体をくまなく黒で覆うこと。ただし、設営のための金具や水糸、額や台座、モニタ、説明文など、作品のメインビジュアルでない部分に関しては黒でなくても可。
・平面の場合、作品自体の占有幅は150cmまで(高さは地面から天井まで自由)。
・立体の場合、サイズは特に制限なし。危険なく設置可能な形式にすること。
・素材は自由。ホームセンターやハンズなどの加工サービスも自由に活用してよい。
「黒と光」 岸本健 2017 アクリル板、LED、鉄
黒いアクリル板にヘアライン状に傷をつけてLEDの光を照射すると、スジと直行する方向に直線状に光が伸びる。正面から見たときには直線状に見える光の線は、鑑賞角度を変えると湾曲して見える。
「行進曲」 大井直人 2017 チョコレート菓子
チョコレートが注入されたビスケットのお菓子をバーナーで炙り、炭化させて並べた作品。もともと表面に描いてあったイラストは、全体が黒くなることによって全く見えなくなる。それにより、立体的な形状だけが強調される効果が得られる。
「暗闇で読む本」 大城ひかり 2017 布、ボール紙、ボタン各種、刺繍糸、紙、針金、テグス、毛糸、ビニールテープ、布テープ、塩ビ板、スチレンボード、マジックテープ、モール
暗闇で読むことを想定した真っ黒な素材だけで出来た本。触覚に意識を集中することで、素材を当てたり、形を探ったりして楽しむことができる。一部匂い袋を仕込んだページもあり、嗅覚にも訴える作品になっている。
「表層」 大田友子 2017 ガラス、塗料
直方体のガラスの背面には、ゴーヤの形状をそのまま型取ってできた凹部がある。ここに黒い塗料を薄く塗ることによって、立体的な形状が鮮明に認識できるようになる。
「七律」 齋藤太一 2017 墨
墨汁をゼリー状に固めて並べた作品。土台の板を掴んで振動を与えると、プルプルと揺れる。一つひとつ微妙に形や硬さが異なるため、揺れ方が一様でない点も面白い。
「穴」 佐々木楓 2017 シリコン
黒というキーワードから穴を連想し、普段は虚の空間として存在する穴に黒いシリコンを詰め込んで立体化した。ボタンやレンコンなど複数の穴で構成されるモチーフは、穴どうしの位置関係も忠実に再現して配置している。

マカロニ

55円

ボタン

ちくわ

ちくわ

ドーナツ

トイレットペーパー

れんこん

「ふちに立つ」 田中夏海 2017 ガラス
ガラスの表面に波紋状の起伏を与え、光の反射を見せる作品。波紋の間隔や角度を変えてバリエーションを与えた。鏡面仕上げの黒は光をシャープに反射し、様々な模様を浮かび上がらせる。
「生け炭」 曹鉄平 2017 炭
炭をヤスリで磨くと、艶を出すことができる。墨を丸ノコでまっすぐ切断して磨いたり、元々ある曲面を生かして磨くなどして、テクスチャーの違いを際立たせた。同じ黒でも光の反射の仕方が異なるため、表情は大きく変わる。
学群3年生対象課題:「伸縮による表現」

課題概要
表現の可能性を広げるためには、素材の特性に注目することも重要である。一般に表現が特定の内容を伝達するために行われる場合、その内容から逆算して素材や技法を選択する。一方、逆算ではなく加算により表現を開拓する方向性もありうる。この課題では、自ら手を動かして素材の新しい表情(=新しい選択肢)を引き出そうとする過程で、実験的姿勢を養うことを目的としている。

課題条件
・伸縮性のある素材にテンションをかけることで生まれる表情を活用すること。
・壁面展示、吊り下げ式展示は不可。単体で自立する表現を考えること。サイズは特に制限なし。危険なく設置可能な形式にすること。
・素材は自由。面材ではなく紐状の素材などを活用しても良い。なお、一般に伸縮性素材と呼ばれていない素材であっても、素材そのものに僅かでも伸縮性があるなら活用可。
・ホームセンターやハンズなどの加工サービスも自由に活用可。
「Instant Screen」 藏本航 2017 ゴム紐、プロジェクター
垂直に張った一本の白いゴム紐を指で横方向に弾くと、プロジェクターから投影された光がゴム紐に反射し、ゴム紐の動きが止まるまでの短時間だけ映像を見ることができる。映像は、展覧会開催直後から計測した時間をデジタル表示したもの。
「narrowed」 田口朱凜 2017 布
水着やレオタードに使われる伸縮性の高い布を使い、部分的につまんで固定することでヒダを作った。布は伸縮により密度が変わり、色が濃い部分と透けて薄くなる部分ができる。つまんだところ同士は線状のヒダで結ばれ、網の目のような形状が出来る。逆光の光を活用することで、濃淡を強調した表現を意図している。
「跡」 加来未咲 2017 風船、筒
風船を割ると、裂けたゴム膜の輪郭は多様な表情を見せる。このゴム膜を円筒に固定して一列に並べた。鮮やかな赤い面が作り出す複雑なリズムは実材から抽出したからこそ得られるディテールであり、手で描くことでは得られない線には独特な魅力がある。
「重」 三田あかね 2017 タイツ、木球
複数の木球をタイツに入れて張りを与え、口を糸で縫って閉じ込めた。複数の木球が作り出す形状に沿って伸縮性のあるタイツが滑らかな曲面を生み出す。本来のねらいは、タイツが伸びて生地が薄くなった部分で木球表面に塗った色が見えるはずだったが、伸びが足らずその効果はあまり見られなかった。
「しわ」 笠原萌 2017 半紙
半紙を水で濡らし、乾かした時に出来るシワを活用した作品。紙にも僅かな伸縮性がある。和紙は繊維方向もバラバラで洋紙のように単純に丸まってしまうこともないため、多様な表情を得ることができる。重ねることで断面にはランダムな空間が得られるため、これを強調する目的で数千枚重ねて立体化した。
「Flicker」 速水一樹 2017 加熱したステンレス板
薄いステンレス板をバーナーで炙り、熱膨張により起伏を与える試み。加熱により現れる酸化皮膜の虹色も構成要素として取り入れた。
その他、授業課題以外の展示作品
「boxed-in crystal」 速水一樹 2017 アクリル板、アクリルケース
内部の立体は接着などせず、直方体のケースに入れるだけで積み上げられる形状になっている。透明の壁面があるからこそ成立する形を模索する試み。
曹鉄平 2017 角材
一本の太く長い角材に昇降盤を使って側面4方向から溝を与え、内部に別の立体が隠れているように見せている。溝が深いため近距離では上下の形の繋がりを確認することはできないが、視点を上下に動かしたり、離れたところから見ることで内部の形状の全貌を把握することができる。木目が繋がっているため一本の木から削り出していることが一目で分かる。
「Transformation Δ」 疋田奈菜 2017 ヒノキ平棒、結束タイ
合同な部材の組み替えによってできる形の展開を模索したもの。部材は、ヒノキ平棒3本を結束タイで三角形になるよう固定したものである。正三角形の各辺が内側に湾曲したような形状だが、基本形は三角形のため強度もあり素材も軽量のため、様々な構造に耐える。湾曲した曲線が滑らかに繋がるため、統一感のある立体が得られる。

平面構成演習 選抜作品

講評風景

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