開催によせて
 表現の拡張展では、毎年テーマを決めて一定の制約の中で造形表現の可能性を追求してもらっています。過去に設定したテーマは「過剰性」「黒」「伸縮」「10点組作品」「発注」です。こうした縛りを設けると、普段と違ったことに挑戦するきっかけになります。制約を与えることで創造性が損なわれる懸念もありますが、共通のテーマに取り組む中で互いの試みから触発されることも多いようです。
 今年のテーマは「S0号の木製パネル」です。一辺18cmの正方形木製パネル(薄いベニヤの裏面に桟が取り付けられたもの)、または同サイズの板を使うことが条件です。素材の指定は今回が初めてだったので、出題者としてはややチャレンジングです。慣れ親しんだ素材や技法をベースに想像を膨らませたい学生にとっては抽象的なテーマの方が当てはめやすいのですが、今回のように取り扱う素材が指定されてしまうと活路を見出せなくなる可能性もあります。一方で、具体的な素材が指定されるとそれを使わざるを得ない以上、いつも以上によく観察し、さらに実物を手にとって触りながら考えることができるため、発想を展開させやすい面もあるのではないか…という期待もあります。
 今年はもう一つ、新しい試みをしています。各自のキャプションに「制作条件」という項目を追加しました。S0号木製パネルの使用については出題者側が課した条件ですが、作り手側も表現を深掘りにするために何らかの制約を自身に課しているはずです。それを文章化して試行錯誤のフィールドを明確にすれば、漠然と考えるよりも悩むべき点がはっきりするのではないかと期待をしています。鑑賞者にとっても、作り手の試行錯誤のフィールドを覗き見できるのは結構興味深いのではないかと思います。同じ制作条件下で、自分ならどんな風に展開できるか想像しながら鑑賞すると面白いかもしれません。

  上浦佑太(芸術系助教・構成領域)
前田萌 MAEDA Moe S0号木製パネル、日用品、布
制作条件:
・S0号の木製パネルの表面に任意の製品を置き、布で覆う。
・製品は厚さ3cm以上のものを選ぶ。
・製品は木製パネルの正方形に収まるサイズとする。
・木製パネルに置く製品は1つだけとする。
速水 一樹 HAYAMIZU Kazuki S0号木製パネル、既製品
制作条件:
・S0号の木製パネルと既製品1種類(個数自由)だけを使い、自立する立体的な構造を作る。
・素材に加工をしてはならない。分解して元の状態に戻せる範囲で組み立てること。接着剤やビスなどの使用も不可。
藏本 航 KURAMOTO Kou S0号木製パネル、布、ジェッソ
制作条件:
・S0号の木製パネルに木工用ボンドを塗り、布を張る。
・水でボンドを溶かしながら、布を任意の形に破る。
・布を破る箇所の数は自由。
・布は一色の塗料で塗りつぶす。
・塗料の色は任意とする。
岡本太玖斗 OKAMOTO Takuto S0号木製パネル、手、木製の机
制作条件:
・S0号の木製パネル1枚を使って出せる音を組み合わせて作る。
・音は、パネルと、自らの手または木製の机との間で発生したもののみを用いる。
・一つの音の長さは1秒以内とする。
・全体の長さは2分程度とする。
・極端に音色が変わる加工は禁止。イコライザの調整など、音色を明瞭にする作業はしても良い。
岡本太玖斗 OKAMOTO Takuto
S0号木製パネル、本、筆記具、硬貨、CDケース、ペットボトル、足、コップ、茶碗、箸、紙、瓶、花、スマートフォン、クリップ、トイレットペーパー、土、煮干し、釘、輪ゴム、キャンドル
制作条件:
・S0号の木製パネル1枚と、身の回りにあるもの1種類を用いる。
・ものを選ぶときは、パネルとのスケールの対比に注目する。
・必ずパネルの上だけで構成する。こぼれ落ちたりしてはいけない。但し、接地面以外が外へはみ出すのは良い。
・最終的な表現形態は、S0号サイズの写真パネルとする。
桑原拓巳 KUWABARA TAKUMI S0号木製パネル、モルタル 、木材
制作条件:
・規格サイズの強調をテーマとする。規格サイズとは幅・奥行・高さ、もしくはその製品特異の寸法を指す。
・製品のどの部分の寸法を強調するかは自由とする。
・製品自体も作品に含めること。
・製品の名称、規格サイズを明記すること。
 名称   :S0号木製パネル
 規格サイズ:W180×D180
千葉洸里 CHIBA  Hikari S0号木製パネル、綿棒、トレーシングペーパー
制作条件:
・S0号の木製パネルにトレーシングペーパーを水張りし、その上に綿棒を配置する。
・この上に更に1枚、トレーシングペーパーを水張りする。
・綿棒の固定には接着剤を使ってもよい。
・綿棒の使用本数は5本以内とする。
・綿棒はパネルからはみ出ないように配置する。
・綿棒は交差してはならない。
・綿棒の加工は不可。
綱川椎菜 TSUNAKAWA Shiina S0号木製パネル、板、ペンキ
制作条件:
・S0号の木製パネルのみを材料とする。
・パネルを2本の直線で切断し、3つの部材に分解する。
・3つの部材を組み合わせて立体的な構造を作る。・木製パネルに置く製品は1つだけとする。
海邊可奈子 KAIBE Kanako S0号木製パネル、綿、布、木、丸ゴム、糸、留め具
制作条件:
・木製パネルに布を張って綿を詰める。
・上記で得られた膨らみに圧力を加える。素材や方法は自由。
・圧力を加えるのは、綿を詰める前後のどちらでも良い。
・布の伸縮性を最大限生かし、綿を詰められるだけ詰める。
・パネル側面には綿を詰めない。
・木製パネルに置く製品は1つだけとする。
稲見 朱莉 INAMI Akari S0号木製パネル、アクリルガッシュ、木工用ボンド
制作条件:
・S0号の木製パネル使って制作する。
・木製パネルを直線で切断する。
・切断の回数は自由。
・切断面と、切断面からパネルの表面1cmに色をつける。(1回の切断につき1色)
・切断したパーツを組み替えて接着する。
高地 彩音 KOUCHI Sato S0号木製パネル、発泡ウレタン、膜状の素材
制作条件:
・S0号のパネルに発砲ウレタンを吐出し、その上から膜状の素材を被せて裏面まで折り込む。
・膜を張った後に発砲ウレタンを流し込んでも良い。
・発砲ウレタンはスプレータイプの物を使用する。
・発砲ウレタンはパネル表面の9割が埋まる程度使用する。
・発砲ウレタン硬化後、膜を取り除いても良い。
・パネル本体の加工も可(穴あけ等)。
岩崎 奈々美 IWASAKI Nanami S0号木製パネル、絵の具
制作条件
・S0号の木製パネル(枚数自由)を用意し、それぞれの表面に1色で何らかの形を描画する。
・上記パネルを離して床に配置し、視覚的補完により任意の図形を認識できるようにする。
楊 暁新 YANG XIAOXIN S0号木製パネル、紙バンド
制作条件
・S0号の木製パネルと、紙バンドを使って制作する。
・木製パネルの裏面にある、桟に囲まれた空間を利用し、紙バンドを曲げた際に生まれる反発力だけで固定する。
篠原 結衣 SHINOHARA Yui S0号木製パネル、アクリルガッシュ、シリコンオイル
制作条件
・S0号の木製パネルを基盤とした立体的な構造を制作する。
・木製パネルは何枚使用しても良い。
・絵の具に何らかの素材を混ぜて、画面に定着させる。
・描画の際には、木製パネルに自身の手または手の延長にある道具で直接触れてはいけない。
佐藤 瞭太郞 SATO Ryotaro S0号木製パネル、ボリエステル樹脂、他
制作条件:
・S0号の木製パネルの型を作り、素材を入れポリエステル樹脂で固める。
・使用できる素材は1種類のみ。
・形が同じで色が異なるものは同一素材とみなす。
講評会
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