表現の拡張展2021
平面・立体構成演習授業成果展
本年度テーマ:数理的構造と不規則性
遠山寛人/諸川もろみ/影山亜美/中山佳保子/原田薫/八重樫響/細井那月/徐雯俐

オンライン開催(2021年2月5日〜)
関連リンク:表現の拡張展202020192018

開催によせて
 表現の拡張展では毎年異なるテーマで新しい表現に挑戦します。今年度のテーマは「数理的構造と不規則性」です。身近な例としては、カレンダーや楽譜のように一定の枠組みに文字や記号が配置されるケースが挙げられます。波紋の同心円や蜂の巣のハニカム構造など、自然界のパターンにも不規則な歪みが見られます。数理的構造をベースにしつつ適度に不規則性が入り混じる様子には、独特なゆらぎの美や親しみやすさがあります。
 造形作品においても数理的構造と不規則性をあわせ持つ事例は数多くあります。しかし数理的構造と不規則性は本来相反する要素であり、両者を作品に取り入れた上で魅力的な表現に昇華するためには慎重な検討が必要です。不規則な要素が単なる作業精度の低さとして捉えられてしまう可能性もあります。
 数理的構造のうち、二次元の構造には以下のような例があります。
・複数の図形の数理的配置による二次元の構造:碁盤の目、入れ子構造、内接・外接の関係にある図形など
・数理性を持つ単独の図形による二次元の構造:正円、正多角形、黄金比の四角形、数理曲線など
・どちらにも該当するもの:対称性のあるかたちなど
 三次元の数理的構造ももちろんあります。例えば立方体を敷き詰めた空間や、面を重ねた本も三次元の数理的構造です。さらに時間軸を持つ数理的構造もあります。運動造形であれば回転数、映像であればフレームレートなどが数理的構造として機能します。
 構造から形を紡ぎ出したり、構造に沿って何かを並べたりするうちに、その構造が持つ意外な応用の可能性に気づくこともあります。数理的構造を単なる整理整頓のツールとして見るのではなく、創造性を触発する一種の装置として捉えられるようになると発想の幅は大きく広がります。本展がそのきっかけとして機能することを願っています。
上浦佑太(芸術系助教・構成領域)
遠山寛人 TOYAMA Hiroto
写真
平等院鳳凰堂の模型を水中に沈め、上から塗料を流して正面から撮影し、これを現地で撮影した建物の写真と組み合わせて合成した。屋根の溝の平行線を数理的構造と捉え、ここに流体の不規則な運動を絡めて作品化している。溝に沿って流れ落ちる塗料の平行な軌跡は、屋根から離れると大きく歪む。左右対称の安定した構図がベースになっていることも、塗料の舞う複雑で豊かな表情を強調する効果を生んでいる。
諸川もろみ MOROKAWA Moromi
「n羽鶴」
素材 :広島に送られた千羽鶴を再生して製造された折り紙1000枚、テグス、鉄板、マグネット、額、マット、ゴミ箱ほか
サイズ:可変(折り紙の部分 約110x960mm)
等間隔に並ぶ垂直線を数理的構造とし、折り鶴が並んでいる。千羽鶴は複数の人の手で折られた鶴を統合して作るものであり、作業精度の差や配置の不揃いはむしろ温かみとして捉えられる。本作はその構造を活用しつつ、平面的に広げることで数理的構造と不規則性の関係を強調している。視覚効果に関してはある程度結果が予想できるアプローチだったため課題の趣旨とはやや離れているが、千羽鶴から作られた再生紙から千羽鶴を折るという循環の過程で「n(=千以上)羽鶴」になるという解釈とネーミングが良い。
影山亜美 KAGEYAMA Ami
「神兵」
素材 :陶土(型成形)
サイズ:1個につきD2.5×W2.5×H4.5cm程度、64点組作品
型取りで得られた64の個体にそれぞれ着色などの細工を施し、前後左右が等間隔になるように8×8で並べたもの。碁盤の目の数理的構造に沿って配置したものとして捉えられる。口元に詰め込んだ釉薬がよだれのように垂れており、その広がり方や流れ方、色の見え方などに不規則性が反映されている。よだれの様子が個々に異なることで、一見外観のほとんど同じ個体それぞれにキャラクターの違いがあるかのように思える。仮に整列させていなければこの微妙な違いを瞬時に読み取ることは難しく、数理的構造と不規則性の両者がきちんと機能した良い例である。
中山佳保子 NAKAYAMA Kahoko
素材 :キャンバス、アクリル絵の具
サイズ:S0号(18×18cm)、30点組作品
キャンバスの内側に鉛筆で薄く正方形(=数理的構造)の輪郭を描き、目をつぶって他者の口頭による誘導を頼りにそれをなぞる。このプロセスで得られた輪郭の内側を赤く塗って不規則に歪んだ形を得ている。誘導役は毎回別の人に依頼するため、指示の出し方やタイミングによって毎回異なる輪郭が描かれる。誘導方法について手本を示したり制限を設けたりしないことで多彩な形状の獲得に成功している。進行中にも指示内容は少しずつ整理されるため、全体が均質にブレるわけではなく極端にずれた箇所が部分的に生み出されることがあり、不均一な不規則性を得られている点も興味深い。
以下は試作。キャンバスの中心のみを把握した状態でフリーハンドで同心正方形や同心円を描き、差分を内外で色分けした。いずれもS100号。
以下も試作。左と中央はそれぞれ構造の中心点のみ印をつけてその周りにフリーハンドで円や正方形を描き、差分を内外で色分けしたもの。右は等間隔に並ぶ平行線の始点と終点のみが分かるように目印をつけてフリーハンドで直線を描き、差分を上下で色分けしたもの。いずれもS10号。
原田薫 HARADA Kaoru
素材 :陶土(鋳込み成形)
サイズ:1個につきD7×W7×H17cm、9点組作品
花瓶製作用の型を使って9つの同じ形を得たうえで、それぞれに同じように釉薬をかけて焼成した。同じ形、同じ釉薬、同じ焼成条件でも異なるまだら模様が得られるため、それをそのまま作品化した。白の釉薬と青の釉薬が混ざり合うことで不規則な模様が生じている。もともと陶は焼成の過程で形や色が変わるため目的の表現を忠実に得ることが難しく、通常はその不規則性をコントロールする技術の習熟が望まれる。しかしこの課題では不規則性を積極的に表現に活かすことが求められているため、同じ条件下で複数制作することにより差異の強調を図った。
八重樫響 YAEGASHI Hibiki
作品1
素材 :アクリル樹脂、パラフィンワックス
サイズ:1個につきD9×W9×H8cm、9点組作品
熱した蝋を市販の円柱型アクリル容器に注いだ。アクリルは蝋の熱によって変形し、その形状に影響を受けて今度は蝋が凝固・収縮する。アクリルと蝋では冷え固まる温度に10度以上差があるため、蝋の凝固に伴う収縮の力はアクリルの変形に反映されない。三次元の数理的構造である円柱は不規則に歪み、その中で冷え固まる蝋もまた不規則な形状になる。同じ方法で16点制作し、縦横に等間隔に並べて差異を強調した。同じ温度で注いでも円柱の歪み方は全く異なる。とくに容器上部の縁は大きく変形しており、有機的な曲線がつくるリズムが心地よい。凝固した蝋の形状がやや認識しにくいため、着色などで改善が図れるかもしれない。
※16倍速再生
作品2
素材 :スチロール樹脂、パラフィンワックス
サイズ:1個につきD6×W6×H6cm、36点組作品
こちらは立方体のスチロール樹脂に熱した蝋を注いだもの。上部4辺は不規則に内外に歪み、全て内側に凹むものもあれば、逆に全て外側に出っ張るものもある。作品1の容器よりも厚みが薄く、素材や形状も異なるためか変形が激しい。
細井那月 HOSOI Natsuki
素材 :木製パネル、水性ペンキ、紙粘土、水
サイズ:それぞれS4号(33.3×33.3cm)3点組作品
紙粘土に水を混ぜて、白塗装した木製パネルの上に生クリーム搾り器で絞った。3点それぞれ一回で充填する領域の単位を変えて異なる表現効果をねらった。事前にパネルに鉛筆で数理的秩序に則って線を引き、それを目安になるべく均質になるよう意識しながら画面を隙間なく覆った。腕や手先の運動のブレや気泡の混入、乾燥後のひび割れなど不規則な要素が様々に入り込み、豊かな表情が得られた。当初は大きなサイズで制作することも選択肢にあったが、細かい表情を近くで鑑賞してもらうことを優先して比較的小さなサイズにして組作品として展開した。
以下は試作および本制作の制作風景。
徐雯俐 XU WENLI
素材 :キャンバス、アクリル絵の具、糸、装丁用接着剤
サイズ:それぞれ20×20cm 3点組作品
キャンバスに糸を貼り付けて凹凸を作り、これを立てかけて上端から等間隔に注射器で絵具を流した。それぞれ糸を垂直、斜め45度、水平に等間隔に張ることで数理的構造に沿った凹凸を設け、絵具の流れ落ちる軌跡に乱れを生じさせることで不規則性のある形状を得ている。豊かな絵の具の表情が、徹底した機械的処理から生じている意外性が大きな魅力になっている。より大きなサイズで、粘度なども様々に変えながら検討すればまだまだ質の向上が望める。当初実験していた目の粗いスポンジや立体的に糸を張った構造物への絵の具の滴下も意外性のある表情が見られたので、そちらも今後探求する価値がある。
以下は試作。左は糸を密集させたり離したりしながら絵具の流れや広がり方を確かめたもの。右は当初案で、グリッド状に凹凸をつけたもの。
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